【中途半端なガス料金公開、標準価格の意義】
プロパンガスの価格公開が前向きに議論され、価格公開するプロパンガス事業者が増えつつあります。しかし、このガス料金公開には2種類の大きな違いが存在します。
意外な事かも知れませんが、経済産業省の役人さんは、プロパンガスの価格公開に後ろ向きです。プロパンガス2,000万世帯に対する人員が、本省担当者でたったの2人です。当然、余計な仕事を増やす余裕はありません。プロパンガス行政の基本は、安全・保安であって価格ではないことも関係します。そもそも価格を規制する法的根拠が無いのです。
プロパンガス料金公開の発端は、国会の参議員経済産業委員会で当時の宮沢洋一経産大臣が、役人の想定問答を無視してプロパンガスのガス料金トラブルを改善させるための踏み込んだ発言をした英断がきっかけです。それまで、自由競争を理由にのらりくらりと躱していましたが避けられなくなった訳です。しかし、経産省側の本質は変わりませんから、料金公開という部分だけ一人歩きさせて「完全公開」ではなく「標準価格」でグレーゾーンを残そうとしているのです。別に悪意ではなく、ハードルの高い「完全公開」より、お茶を濁した「標準価格」の方が賛同者を得られ安く、事案の処理が早く済むからです。標準価格から逸脱した料金設定はしない筈との道徳観を元にしていますが、そうならないことは現状を見れば明白でしょう。料金規制に行政の法的権限がないことも足枷になっています。
大別すると①ガス料金を完全に公開するプロパンガス事業者、②標準料金を設定して実際のガス料金を秘匿しているプロパンガス事業者、となります。どちらもガス料金公開を行っているプロパンガス事業者として、経済産業省に調査・分類されています。
一目瞭然ですが、この2種類は、同じガス料金公開でも、性質や企業姿勢が全く異なります。①は一般消費者に販売するプロパンガス料金を完全に公開している訳ですから100%の透明性を確保した事業者と言えますが、②はガス料金公開とは名ばかりで、内実は閉鎖的隠蔽体質を維持します。
②の事業者にとってガス料金公開は、他社が行っているから仕方無くガス料金公開するか、自社の営業目的に公平・公正を装う悪質事業者かのどちらかです。客寄せ価格や根拠の無い割高な価格を改善しないまま差別価格を維持するのは自明の理でしょう。一般消費者の利益など一切考えていないと言っても過言ではないのです。
ただ、全く意義がないかと言えばそうでもなく、標準価格を設定することは、今まで証明が困難であった基準を設けることであり、言わば定価(メーカー希望小売価格)を設定したことになります。これはとても意義のあることで、仮にこの標準価格を上回る価格で販売されている顧客が居る場合、その顧客は、過払い金として既払いガス料金の返還を求めることが可能だからです。過払い金返還の時効は10年ですから、従量単価1㎥=200円も差があれば1件あたり40万円以上と大変な金額になります。
今は、一般消費者が理解していないために騒ぎになっていないだけで、気づいた誰かが騒ぎ出せば、消費者金融業界で起こった所謂「過払い金返還訴訟」が頻発することになりかねません。金融業者と違い届け出事業であるプロパンガス業界に引当準備金を求められることはないでしょうが、徹底的に高値販売が排除されることになります。
また、仮に保有する簡易ガス事業が標準価格より上回っていれば、住民からの値下げ請求を拒絶出来ないでしょう。
結果的に赤字販売する原資を失い客寄せ価格も出来なくなるため、自らが設定した標準価格に平準化していくものと思われます。即ち、標準価格の設定とは、上限価格を設定したに等しいのです。
しかも、②の事業者は、中堅以上の大手事業者に多い傾向があり、他社との競争上高めのガス料金を標準価格とすることはできません。従量単価1㎥=390円以下の価格レンジに落ち着くものと考えられます。
しかし、所詮はお茶を濁した対応なので、悪意を持って対応すれば、プロパンガス料金の問題改善は全く進みません。ガス料金が非公開の事業者と標準価格を公開した事業者とで本質的に何ら変わりが無く、差別化が出来ないからです。
どのガス料金レベルを標準価格とするかは、プロパンガス事業者の自由ですから、業務用・産業用を含めた平均を平均価格と称したり、全く販売実態とかけ離れた価格を標準価格とすることも可能です。差別価格や賃貸住宅居住者へのぼったくりとも言える高額のガス料金も維持されることでしょう。
ガス料金の標準価格公開には、一定の意義はあるもののプロパンガス業界の改善という意味では、全く意味がないものです。